「俺の油」用の胡麻はこの鉄鍋で手炒りします。祖母が使っていた私より年上の鉄鍋なのです。
私の幼年期頃に、祖母が土間で小さな箱に腰掛けて、この鉄鍋を使い練り胡麻用の胡麻を炒っていました。私は鉄鍋を挟んで、祖母の向かい側にしゃがんで、その作業を飽きもせずにずっと眺めていました。祖母の作る練り胡麻はほんのりと甘かったのでが、それは胡麻の炒り加減で決まりました。
いつもいつも、向かい側で作業している祖母の顔が、炒られた胡麻から立ち昇る煙でうっすらと曇るタイミングで、鍋を空けていた記憶があります。
私もその炒り加減で仕上げているので、「俺の油」も甘いのです。もう亡くなって25年以上経ちますが、今でもこの鍋の向こうにいる祖母と話しをしながら胡麻を炒っているような気がします。